特発性顔面神経麻痺(以下ベル麻痺)は近年の研究により、顔面神経膝神経節に潜伏感染したヒト単純ヘルペスウイルス1型(以下HSV-1)の再活性化とする説が有力である。我々の研究室では、ベル麻痺の実験モデルとして、マウスの耳介にHSV-1を接種して一過性の顔面神経麻痺を発現する動物モデルを作製し、ベル麻痺の病態解明を行ってきた。しかし、現在のところこのモデルがどのような機序で神経障害に至るかは明らかではない。一方、NOは生理的なメディエータとしての役割を有するのみならず、ウイルス感染症を含む様々な病態に関与することが明らかにされている。本研究では、このモデルにおけるNOの関与について検討し、このモデルの神経障害機序について検討した。 実験には4週齢のBalb/cマウスを用い、顔面神経麻痺はHSV-1を右耳介に接種することで発現させた。左耳には生理食塩水を同様の手順で接種し、他に対照として両側耳介に生理食塩水を接種したマウスを使用した。麻痺発現の判定は連日マウスの顔面運動を観察することで行った。以上のマウスについて以下の如く検討を行った。顔面神経内のNO定量は、測定装置を用いて左右の側頭骨内顔面神経のNO量を接種後4日目、7日目麻痺なし、7日目麻痺あり、14日目麻痺消失の4群各8匹について定量した。結果、4日目、7日目麻痺なし、14日目麻痺消失、の麻痺のない3群は左右のNO量が同程度であったが、麻痺の発現した7日目麻痺ありの群では左(非麻痺)側NO量に対する右(麻痺)側NO量の比が増大していた。本モデルの麻痺発現機序は脱髄による伝導ブロックであることが証明されているが、本研究結果から、脱髄はNOによるシュワン細胞障害の結果と推測された。
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