研究概要 |
内耳の水代謝に、arginine vasopressin(AVP)とそれによって作動するaquaporin 2(AQP2)による水代謝システム(AVP-AQP2 system)が深く関与することを報告してきた。今年度の研究では、このAVP-AQP2 systemに限定せず、AQP1からAQP7までのAQP蛋白の内耳局在を検討した。その結果、これら7種のAQPが全て内耳に発現すること、特に、AVP-AQP2 systemに関係の深いAQP2,3,は内耳水代謝の主要な場である血管条、内リンパ嚢で発現することが判明した。さらに、AVP-AQP2 systemが作動するために必要なAVP2型レセプター(V2-R)も同部位に局在することを見出した。さらに、AQP2の発現は、AVP-AQP2 systemの阻害剤あるlithium負荷で抑制され、内リンパ腔容積の減少が形態的にも見られることより、AVP-AQP2 systemは内リンパ液の産生に深く関与していることが傍証された。また、腎臓でAVP-AQP2 systemと深い関連を持つAQP4は、内耳においては、血管条基底細胞とgap junctionでつながっているHensen、Claudius細胞に発現している。よって、内リンパの代謝は、内リンパ腔を側面より取り囲む細胞群が一体となって行われることが判明した。なお、AQP2,3,4とV2-Rはヒト内リンパ嚢上皮に発現することを見出した。ヒト血管条でのこれらの発現については予測するしかないが、これまでラット、モルモットで解明してきたAVP-AQP2 systemによる内耳水代謝機構がヒトでも機能している可能性が高くなった。なお、イオンチャネルの特性も備える水チャネル蛋白、AQP6が内リンパ腔を取り囲む上皮細胞全域に認められた。今後、内耳の水・イオン代謝を考えるにAQP6の役割も考慮する必要があると思われた。
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