研究概要 |
内耳水代謝機構を探る目的で、水チャネルの構成蛋白であるaquaporin(AQP)の内耳局在を検討した。ラットでは血管条に、AQP-1,-2,-3,-6,-7,-9が、内リンパ嚢にAQP-1,-2,-3,-4,-6,-7,-8,-9が局在することが蛍光抗体法による組織科学的手法によって立証した。この結果は、RT-PCRの結果とも一致した。内リンパ嚢に関しては、聴神経腫瘍の術中に採取した人内リンパ嚢を用いて、現在、人抗体が市販されているaquaporinについてその局在を検討したが、AQP-1,-2,-3,-4,が発現し、AQP-5はラットと同様発現しなかった。ただ、多種のAQPが内耳に発現するが、内リンパ嚢では一層の上皮細胞に集中してこれらのaquaporinの膜上での局在について検討することは出来なかった。一方、血管条では、AQP-7,-9は辺縁細胞の頂部に局在した。AQP-1については既に中間細胞に局在することを報告しているが、AQP-2,-3は血管条基底細胞に発現した。基底細胞に発現するAQPについては、膜レベルでの局在を免疫電顕で検討したが、細胞内vesicleにかなり発現しており、基底細胞の外側膜か内側膜か、その局在を決定することができなかった。AQP-2については、vasopressin(VP)でAQP-2のtraffickingを誘発して、膜レベルでの局在を決定する必要があると考えられた。なお、AQP-2の発現を制御するVPのレセプター、V2-Rも血管条では基底細胞に、内リンパ嚢では上皮細胞に発現することが確認できた。基底細胞については、免疫電顕で外側壁に発現することが確認された。Vasopressinは外リンパ腔側より作用すると考えられるので、V2-Rの局在は合理的である。内リンパ液の産生はVP-AQP-2系を阻害するlithiumを負荷すると内リンパ腔が虚脱することを実験的に示した。さらに、vasopressinを急性投与すると、中間細胞、又は細胞間隙に水が貯留することより、急激に流入した水によって血管条が浮腫条に肥厚するのが確認された。以上の結果より、VP-AQP-2系が内耳水代謝に大きな役割を演じていることが分かった。
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