研究概要 |
わが国は世界有数の近視国であり,近視による視覚障害は常に失明原因の上位を占めている。強度近視による視覚障害の原因は,眼軸延長により後極部眼底に生じる様々な近視性眼底病変であるが,中でも黄斑部に生じる脈絡膜新生血管(CNV)が頻度も高く最も重要である。しかし近視性CNVに対する有効な治療法は確立されておらずまた発症原因も明らかではない。そこで本研究では近視性CNV発生の分子機構解明を目的とした。 本年度はヒト網膜色素上皮(RPE)細胞を,細胞進展培養装置(Flexer cell)を用いて機械的伸展を負荷した培養を行った。予備実験により伸展強度15%でもRPEは培養皿から剥離せず,以降伸展強度15%で24時間の刺激を行った。パターンとしては30分間パルス状のストレッチと,連続ストレッチの2種類を選択した。機械的伸展を負荷していないヒトRPE細胞は細胞間が明瞭で敷石状の分化した形状を呈していたが,15%負荷を24時間施行したRPEは,連続ストレッチでは敷石状の形状が崩れ,やや細長い形状に変化した。パルスストレッチでは連続ストレッチよりも線維芽細胞様に細長い形状に変化していた。つぎにRPE細胞からmRNAを抽出し,real time PCR法により解析したところ,機械的伸展を負荷していないRPEに比較し,特にパルスストレッチを負荷したRPE細胞において,血管新生促進因子である血管内皮増殖因子VEGFの発現が上昇し,血管新生抑制因子である色素上皮由来因子PEDFの発現が低下していた。同時に培養上清を用いたELISA法,Western blotting法でも特にパルスストレッチを負荷したRPE細胞においてVEGFの産生が上昇しPEDFの産生が低下していた。以上の結果から,RPE細胞に眼軸延長を模して機械的伸展を負荷するとin vitroでは血管新生を促進する方向に作用することが示された。
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