本研究では、ラタノプロストの作用に関与すると考えられるタンパクの遺伝子多型が、ラタノプロスト点眼による眼圧下降の強弱に関与しているかを、検討することを目的としている。我々は昨年度、健常人において、プロスタグランジンFP受容体遺伝子のプロモーター領域のSNP(Single nucleotide Polymorphism)であるrs3753380にTを持つと、ラタノプロストによる眼圧下降率が低いことを見出した。このことから、今年度はFP受容体遺伝子の他の領域(さらに上流のプロモーター、イントロン、3'非翻訳領域)やプロスタグランジンFP調節タンパク(FPRP)遺伝子のSNPをデータベースより検索し、それぞれのSNPについて遺伝子のタイピングを行った。この結果、FP受容体遺伝子の第一イントロンにあるrs3766355と眼圧下降作用の間にも関連性が見出された。FP受容体遺伝子の他のSNPやFPRP遺伝子のSNPには、ラタノプロストによる眼圧下降率との関連性が認められなかった。 プロモーター領域や第一イントロンのSNPが、ラタノプロストによる眼圧下降作用と関連があったことは、FP受容体遺伝子の発現が薬剤反応性に関係している可能性がある。このため、FP受容体遺伝子のプロモーター領域を、ホタルのルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、レポーターアッセイを行った。その結果、rs3766355の遺伝子型がC/Cホモであると、A/Aホモに比較して、ルシフェラーゼの活性が約8割になることが明らかになった。また、ハプロタイプの解析より、rs3753380がTであると、必ずrs3766355がCであることが判明した。以上より、FP受容体遺伝子のプロモーター(rs3753380)と第一イントロン(rs3766355)の多型がラタノプロストによる眼圧下降の個人差を引き起こす一つの要因である可能性が示唆された。
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