不死化網膜神経・グリア前駆細胞であるR28細胞に血清を除去することでアポトーシスを誘導した。血清除去と共にSNP、ニプラジロール、脱ニトロ・ニプラジロールを濃度を変えて添加した。一群ではこれに各種シグナル伝達阻害薬や一酸化窒素駆除薬を添加した。ニプラジロールとSNPは濃度依存性に血清除去により誘導されたアポトーシスを減弱させた。脱ニトロ・ニプラジロールや一酸化窒素駆除薬添加時にはこの作用はなかったので、両薬剤の抗アポトーシス作用は一酸化窒素供与によると思われた。また、この作用を阻害する薬剤の種類より、cGMP/PKGを介していることが判った。さらに、両薬剤により転写因子CREBのリン酸化が亢進する一方、ドミナント・ネガティブにCREBのリン酸化を阻害するとこの神経保護作用がなくなることから、PKGの下流にはCREBが存在することを示した。 同様の系でラタノプロスト酸も濃度依存性にアポトーシスを抑制した。しかし、この効果はp44/p42 MAPKの阻害薬で減弱したので、上記一酸化窒素供与薬とは異なり、プロスタグランジンF2α誘導体のラタノプロスト酸はp44/p42 MAPKを介することが判った。これらの基礎実験を背景に、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの片眼にラタノプロストないしニプラジロールを点眼し、糖尿病による網膜神経のアポトーシスの抑制効果を調べた。その結果、基剤を点眼した反対眼に比べ、両薬剤はTUNEL陽性細胞、活性型カスパーゼ3陽性細胞数ともに有意に減少させた。ラタノプロスト点眼によりラット網膜内のp44/p42 MAPKのリン酸化は有意に亢進していたので、少なくともラタノプロストによる糖尿病網膜における神経保護効果はこの経路を介することが推察された。
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