A.動物実験に基づいた成果 1.視神経障害後のERG変化 ネコの視神経乳頭の周囲にジアテルミー凝固を行い、視神経線維を傷害した。その後、経時的に全視野刺激および多局所ERGを記録した。その結果、多局所ERGの小波は視神経障害後早期から消失していた。一方、全視野刺激ERGのPhotopic negative response(PhNR)の振幅は障害後1ヶ月以上を経てから低下した。多局所ERGは視神経障害の影響を早期から受けると考えられた。 2.視細胞変性と網膜内層の電気応答 動物実験では視細胞変性モデルで3次ニューロン応答が特異的な変化を示すことを見出した。対象はヒトの網膜色素変性症の動物モデルであるRoyal College of Surgeons(RCS)ラットである。RCSラットでは網膜変性の進行に伴いb波振幅が著明に低下するが、3次ニューロン応答はb波よりも有意に保たれていた。3次ニューロン応答は、視細胞変性が進んだ状態ではERGの形成に大きく関与すると考えられた。 B.網膜疾患および視神経疾患へのPhNRおよびs波の臨床応用を進めた、下記の結果が得られた。 1.糖尿病網膜症 糖尿病網膜症の早期診断には律動様小波(OPs)が用いられている。このことから、糖尿病網膜症の早期には網膜内層の障害が生じていると考えられる。そこで、様々な程度の糖尿病網膜症でPhNRを記録し、その有用性をOPsと比較した。その結果、OPsの感度と特異度は、PhNRのそれよりも優れていた。従って、糖尿病網膜症の早期診断には、OPsがPhNRよりも有用と考えられた。 2.黄斑円孔術後 黄斑手術時に内境界膜を染色するためインドシアニングリーン(ICG)を用いる。高濃度のICGは網膜神経節細胞を傷害することが知られている。黄斑円孔術後の錐体ERGを術眼と正常眼間で比較した。その結果、aおよびb波の振幅には差が認められなかったが、術眼でPhNRおよびs波の振幅が有意に低下していた。このことから、ICGを用いた黄斑手術では視機能障害がなくても、subclinicalな網膜神経節の障害が生じている可能性が考えられた。 3.開放隅角緑内障 100眼の緑内障眼を対象として錐体ERGを記録した。この際に、白色刺激+白色背景(W/W)および赤色刺激+青色背景(R/B)を用いた。PhNR振幅を静的量的視野検査で得られた網膜感度および視神経乳頭形状解析で得られたrim area、視神経線維層厚との相関を検討した。その結果、PhNRは網膜感度、rim areaおよび視神経線維層厚と有意に相関していた。この結果から、PhNRは緑内障の視機能検査として有用と考えられた。また、R/Bで得られたPhNRが、W/Wのそれよりも高い相関係数を示した。従って、R/BがPhNRの記録にはW/Wよりも優れていると考えられた。
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