以前、研究代表者らは、眼球の前房内に存在するTGF-β2や、新たな免疫抑制物質と考えられている神経ペプチドの一種であるCGRPを用いてマクロファージを刺激すると、そのマクロファージが免疫制御システムを獲得することを報告した。このシステムを利用して、研究代表者らは失明率の高いヒト難治性ぶどう膜炎のモデルである、実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)の発症抑制に応用できることを立証した。今回、EAUに対して、より抑制効果の高い治療法と考えられるCGRP遺伝子を導入した樹状細胞による遺伝子治療を施行するにあたり、その前段階の実験として、通常の樹状細胞を用いてCGRPと共培養させた後、EAUへの発症抑制効果を検討し、免疫学的機序を検討した。網膜抗原IRBP由来のペプチド1-20とCGRPおよびC57BL/6マウスから得られたCD11陽性樹状細胞を一晩共培養し、その樹状細胞をIRBPペプチド免疫マウスに移入したところ、陽性対照群は15匹中13匹(87%)の発症率であったのに対し、CGRP刺激樹状細胞注入群は18匹中5匹(28%)までEAU発症が抑制されていた。細胞性免疫能を表す免疫ペプチドに対する遅延型過敏反応も、CGRP刺激樹状細胞注入群は陽性対照群よりも抑制されていた。またCGRP刺激樹状細胞の表面分子は、無刺激樹状細胞に比べてB7-2の発現が抑制されており、樹状細胞とT細胞の細胞間接着のシグナル伝達変化によりEAUが抑制することができたと推察された。また網膜組織からRNAを抽出し、調節性サイトカインが含まれているかRibonuclease proetection assay(RPA)を用いて検討したが、対照群と比較して有意な結果はまだ得られていない。一方、我々はCGRP遺伝子のプローブをPCRの手法を用いて設計し、マウス樹状細胞にElectrophoresis法で導入させることに成功した。次年度にはCGRP遺伝子導入樹状細胞からどれくらいのCGRPが産生されるか、それによりどのようなサイトカインが他の細胞から産出されるか検討予定である。それに引き続きCGRP遺伝子導入細胞をEAU発症マウスに注入し、発症抑制効果を調べる予定である。
|