目的:増殖前糖尿病網膜症(PPDR)に対する適切な網膜光凝固の時期と凝固方法について検討するために多施設無作為臨床試験を行い、登録時に光凝固を施行した群(施行群)と光凝固をしなかった群(非施行群)に分けて36ヶ月間経過を観察して比較した。 対象と方法:基準写真を基に本試験の対象となった49例のうち、中央登録割付により施行群に23例、非施行群に26例が振り分けられた。施行群では試験開始時に蛍光眼底造影(FAG)での無還流域に選択的凝固を行った。非施行群では光凝固術をせずに経過観察した。以後6ヵ月ごとの経過観察中に病変の進行または病期の進行があった場合は光凝固を施行した。36ヶ月以上経過が追えたのは32例(65.3%)で、施行群は12例で非施行群は20例であった。 結果:施行群で2例(16.7%)、非施行群で12例(60%)が経過観察中に新生血管が発生し増殖糖尿病網膜症(PDR)に移行し、非施行群で網膜症の進行率が有意に高かった(p=0.02、Fisher)硝子体出血をきたしたのは3例で、全て非施行群であった。ETDRSのhigh-risk PDRに進行した症例は、硝子体出血をきたして判定できなかった1例を除き、他の31例にはなかった。Very severe visual loss(0.02以下)に陥った症例は、非施行群の硝子体出血きたした1例であった。登録時と36ヶ月時におけるlogMAR視力の比較では、施行群では有意に2段階以上低下し(p=0.047)、非施行群では有意差はなかった(p=0.13)。2群間で光凝固回数に有意差はなかった(p=0.056、Wilcoxon)。黄斑浮腫を合併して局所凝固を併用した症例は、施行群で2例、非施行群で1例であった。非施行群の3例に硝子体出血が生じたが、経過観察となった。36ヶ月時までに硝子体手術を施行したものはなかった。 結論:本試験で提示した基準写真に見るPPDRは、PDRへの進行を予防するための光凝固術を行う1時点として見逃してはならない病期である。
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