背景 以前我々は、胎児体外循環用装置を用いて30分間の常温体外循環を施行し、胎児のアシドーシスの進行と臍帯動脈血流量の減少を認め、その原因としてエンドセリンによる内皮機能障害が関与していることを報告した。しかし、エンドセリンの特異的阻害剤であるTAK-044を用いて内皮機能を温存しても胎児体外循環の最大の問題点である胎盤機能低下を抑制するまでには至らず、異なった機序の存在が考えられた。そこで今回我々は、その機序として臍帯血管のアポトーシスの関与について検討した。臍帯血管のアポトーシスは正常な発達において胎児循環から出産後の循環に急激に変化する際認められることが報告されており、体外循環によりそのアポトーシスが認められる場合、胎児体外循環施行後、母体内にて胎児循環が破綻することが懸念される。 方法 妊娠羊を使用した。体外循環群(N=7)と対照群(n=6)に分け、体外循環群では30分間の常温体外循環を施行し、終了後60分の時点で臍帯動脈を採取した。両群ともに採取した臍帯動脈にてTUNEL染色と、cytochrome C、Bax、Bcl-2、Bcl-xL、caspase 3のWestern blottingを行った。 結果 体外循環群では、胎児体外循環終了後、胎児のアシドーシスの進行と臍帯動脈血流量の減少を認め循環動態の悪化を認めた。臍帯動脈のTUNEL染色では陽性細胞数に両群間の差はなかった。Western blottingについても両群間に有意差を認めなかった(cytochrome C(p=0.60)、Bax/Bcl-2(p=0.83)、Bcl-xL(p=0.93)、caspase 3(p=0.39))。 考察 胎児体外循環施行後、胎児の循環動態の破綻を認めたが、臍帯動脈にアポトーシスを認めなかった。体外循環が臍帯血管のアポトーシスを引き起こす要因とはならないと考えられた。
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