研究概要 |
新生児・乳児の腸管運動障害を呈するヒルシュスプルング病の病態発生においては、神経堤細胞由来の腸管神経細胞の分布の異常が認められている。本研究においては腸管グリアと神経細胞の間のシグナル伝達に注目して、ヒルシュスプルング病の病態発生メカニズムの詳細な解析を目指した。即ち、ヒルシュスプルング病モデルマウスを用いて、これらの病態発生の原因となった遺伝子変異、消化管神経叢におけるニューロン・腸管グリア細胞間シグナル(RET、GDNF、SOX10,NGF, NGFR, P2×7 receptor)の発現変異との相関性について検討することを目的として研究を行った。自然突然変異系マウス:Lethal spotting(1s/1s)系、Piebald spotted (s1/sl)系およびDominant megacolon (Dom/Dom)系を免疫不全マウス維持管理環境下に準じたクリーン度に管理し維持した。消化管神経叢におけるニューロン・グリア細胞間シグナル伝達因子の発現動態解析として、各マウスより摘出した全消化管標本ならびに子宮より採取した胎仔を直ちに4% paraformaldehyde溶液(pH7.400)にて浸潤固定後、濃度勾配Sucrose溶液にて浸透圧プロテクトを施した上で0.C.T.compoundに浸し液化窒素下にて急速凍結した。その標本を組織架台にマウント後、凍結標本薄切装置にて10μm〜12μm厚の薄切、連続切片としてコーティングスライドグラスに貼付した。ここで腸管グリア細胞の特異的マーカーとしてGFAP及びS100α分子に対する抗体、ニューロン・グリア細胞間シグナル伝達因子のマーカーとしてRET, GDNF, SOX10,NGF, NGFR, SOX10,P2×7の各々に特異的親和性を有するマウスmonoclonal及び抗ウサギpolyclonal抗体(gene Bank及びcommercial baseにて入手)を反応させた。続いて、FITCないしRhodamineにて蛍光標識した二次抗体を反応させ蛍光抗体法にて分子の局在性を特定した結果、以上の実験法を用いて、これらの病態発生の原因となった遺伝子変異、消化管神経叢におけるニューロン・腸管グリア細胞間シグナル(RET, GDNF, SOX10,NGF, NGFR, P2×7 receptor)の発現変異との相関性について検討した。これらの知見を、ヒルシュスプルング病の臨床例の神経発達について当てはめて検討した。その結果、臨床例でSOX10の異常を有する例がみられ、これらの例では腸管のグリア系のみならず末梢神経系さらには中枢神経系でのミエリン化の異常を示唆する所見が得られた。近い将来、ヒルシュスプルング病のより詳細な病態解析が可能となり得ると考える。
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