研究概要 |
我々の研究室ではラットの小腸移植モデルを用いて、これまでに上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)が移植腸管の腸管適応を促進させ、移植腸管におけるグルコース、アミノ酸などの吸収活性を増加させることを明らかにしてきた。最近、ラット小腸移植モデルにおいて一酸化窒素(nitric oxide, NO)が小腸移植後のbacterial translocationを抑制しグラフトの保護作用を示す報告がある。本研究の計画提出と前後して、我々はラット小腸培養細胞(IEC-6)を用いて、移植時と同じ条件下の炎症性サイトカイン(IL-1β)存在下で、EGFが誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthase, iNOS)の発現誘導を促進することによりNO産生を著明に増加させることを明らかにした(Kitagawa K, Hamada Y, et al. Am J Physiol-Gastrointest Liver 2004;287:G1188-1193)。 本年度(2005)は、ラット小腸移植モデルを用いてEGFのグラフト保護効果とiNOS誘導について解析する前実験として、EGFの他に小腸細胞(IEC-6)のiNOS/NO産生誘導を促進する薬剤のスクリーニングを行った。基礎、臨床において報告されている臓器保護効果を持つ様々な試薬の効果を検討した。その結果、α-lipoic acid(抗酸化剤)、cysteamine(抗酸化剤)、edaravone(フリーラジカル消去剤)、pitavastatin(HMG-CoA reductase阻害剤、三共)などにEGF/IL-1βのNO産生をさらに増幅させる活性が見つかった。とくに新しい高コレステロール血症の薬であるpitavastatinはIL-1βとの共存下において、EGFと同様にNO産生の促進効果を示した。最近、"statins"がその本来のコレステロール低下作用に加えて、臓器保護作用などの"多面的作用"を示すことが良く知られている。Pitavastatinは小腸上皮細胞において、EGF同様にiNOS誘導を刺激しNO産生を介して、小腸移植時のグラフトの回復を促進している可能性が高い。現在、EGFとpitavastatinのNO産生と腸管適応効果との関係を移植モデルや虚血・再灌流モデルを用いて検討中である。
|