研究概要 |
[目的]本研究では、ラット小腸移植モデルを用いて上皮成長因子(EGF)などのグラフト保護効果と一酸化窒素(NO)産生との関係を解析するために、小腸細胞を用いてEGFの他に基礎、臨床において報告されている臓器保護効果を持つ様々な薬剤の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)やNO産生への影響をスクリーニングした。 [方法]培養ラット小腸上皮細胞(IEC-6)に炎症性サイトカイン、インターロイキン1β(IL-1β,1 nM)、BGF(33ng/ml)を投与し様々な薬剤のiNOS誘導/NO産生への効果を検討した。 [結果]IEC-6はIL-1β/EGFの共存下でNO産生を促進する。この系に様々な薬剤を添加すると、抗酸化剤のα-lipoicacidやcysteamine、フリーラジカル消去剤のedaravone(三菱ウェルファーマ)、HMG-CoA reductase阻害剤(スタチン)のpitavastatin(興和)にNO産生をさらに増強させる活性を見出した。とくに新しい高コレステロール血症薬であるpitavastatin(10-100μM)はIL-1βとの共存下において、EGFと同様にNO産生を強く促進した(50μMで最大効果)。Pitavastatinはそれ単独ではiNOS誘導やNO産生には全く影響を与えない。しかし、炎症性サイトカインIL-1β存在下(炎症時)には強いiNOS mRNAの発現をともない、iNosタンパク質のレベルを著しく上昇させ、多量のNO産生を促進した。この効果はスタチンによってその合成が阻害されるメバロン酸を投与することによりブロックされた。従って、このpitavastatinによるiNOS誘導・NO産生の増加は、明らかにpitavastatinのコレステロール合成阻害効果の一端であると考えられる。 [考察]最近、"スタチン"がその本来のコレステロール低下作用に加えて、臓器保護効果などの"多面的作用"を示すことが良く知られている。Pitavastatinは小腸上皮細胞において、EGF同様にiNOS誘導を刺激しNO産生を介して、小腸移植時のグラフトの回復を促進している可能性が高い。
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