研究課題
リンパ系は血管系と並列に存在する脈管系であり、リンパ管の生理学的役割として、主に毛細血管・細静脈領域から漏出した体液や血漿蛋白のアルブミンを血液に再回収して細胞周囲の内部環境の恒常性を適正に維持することにある。しかし、血管新生や腫瘍の血行性転移に比し、リンパ管新生やリンパ行性転移の詳細に関しては不明な点が多く、リンパ管新生を惹起する環境や因子に関してもほとんど解明されていない。そこで、はじめに当教室で確立した乳癌患者のセンチネルリンパ節輸入リンパ管由来のリンパ管内皮細胞と、市販されている毛細リンパ管内皮細胞の生物学的特徴を比較し、培養系に移行したあとも生体内での特徴を有しているかについてマイクロアレイ解析法を用いて遺伝子発現の違いにつき検討した。また、前述の二種類のリンパ管内皮細胞を用いて、リンパ管新生因子として知られているVEGFファミリーやPDGF-BBなどの刺激による増殖能の変化や運動能、浸潤能の変化について検討した。さらに、乳癌細胞株の中でも高転移株として知られているMDA-MB-231の培養上清をセンチネルリンパ節近傍リンパ管内皮細胞に添加することにより、擬似的にがん細胞からのリンパ流を受ける状態を作り、リンパ管内皮細胞表面に出現する接着因子の発現変化について検討したところ、一晩のMDA-MB-231の培養上清刺激によりICAM-1の発現が亢進し、そのICAM-1が癌細胞とリンパ管内皮細胞の接着に関与していることが判明した。
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