幹細胞は、種々の細胞へ分化する可能性のある細胞であり、骨髄にも存在する。本研究の目的は、骨髄に存在する幹細胞をラットの脊髄虚血後対麻痺モデルへ経動脈的に移植し、(1)移植した幹細胞が神経細胞へ分化するか、(2)移植の手段として、経動脈的方法の可能性はどうか(経静脈的方法との比較)、(3)さらに、移植により運動機能を回復させる可能性があるか等を検討することにある。今回の研究成果として以下のことが分かった。 (1)移植した幹細胞が神経細胞へ分化する可能性が高い:移植した骨髄幹細胞を免疫組織学的に検索したところ、移植に用いたグリーンラットの骨髄幹細胞と考えらえられる緑色自発発光した細胞が、脊髄に認められた(移植の成功を示唆する)。さらに、その一部は、神経細胞のマーカーであるNeuronal N陽性であった。マーカー陽性と陰性の両方の細胞が存在することから、移植細胞の一部が神経細胞になった可能性が高いと考えられた(第42回日本脊髄障害医学会にて発表予定)。 (2)経動脈的移植の可能性は高い:従来の移植の方法である障害脊髄局所への移植や経静脈的移植に比べ、経動脈的移植は移植されて残存する細胞が多く、このため、神経細胞へ分化した移植細胞を確認できた。このことは、経動脈的移植が成功率の高い移植方法である可能性を示唆している(第42回日本脊髄障害医学会にて発表予定)。 (3)運動機能の回復に関しては、未だ確認できていない:移植した細胞が生存し、神経細胞に分化している可能性が高いが、運動機能の回復には至っていない。これは、神経細胞に分化した後に、新たな神経系ネットワーク(情報伝達経路)の回復のための手助けが必要なことを示唆するものである。
|