骨髄幹細胞が神経細胞へ分化する可能性が示唆された今までのエビデンスをもとに、脊髄においても移植した骨髄幹細胞は神経細胞へと分化するという仮説をたてた。従来の研究手法が、脊髄への直接的移植であり、移植手術に発生する組織の炎症及び炎症性物質が、骨髄幹細胞の神経細胞への分化を阻み、神経膠細胞への分化へ導くと考え、別の移植経路として経動脈的移植を試みた。 ラット脊髄虚血モデルは、大動脈の一過性遮断・再灌流に低血圧を負荷し作成した。虚血後の自然な運動機能回復期間とされる2週間を経た後に、下肢運動機能障害が持続しているラットを用い、経大腿動脈的に移植を行なった。脊髄の組織の検索により、移植細胞の一部に神経細胞の特異的マーカーを認めた。しかし、多数の細胞が移植できたにも関わらず、血管外の組織に遊走する細胞は少なく、神経細胞の特異的マーカーを示す細胞も少なかった。運動機能の評価においても、組織での評価と同様、運動機能の回復を示すものはなかった。 この研究において、経動脈的な移植により多数の骨髄幹細胞が、手術で生じるような組織の損傷なく、移植が行なえるという点は特筆すべき結果である。また、血管外に遊走した細胞の一部は神経細胞に分化した可能性も示唆された。しかし、多数の細胞移植が可能だったにも関わらず、虚血組織への遊走が少ないのは、虚血組織の誘引に比べ、骨髄幹細胞の血液に対する親和性が高かったのかもしれない。今後、骨髄幹細胞の移植を成功させるには、骨髄幹細胞の走化性因子の研究が必要である。
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