研究概要 |
慢性創傷における再上皮化遅延の機序解明-創傷治癒理論に基づいた治療法の確立を目指して- 私達は,慢性創傷の病態生理の特色の一つである再上皮化遅延の機序解明を行っている.再上皮化過程において,ケラチノサイトのインテグリン発現,真皮細胞外基質,matrix metalloproteinase-1(MMP-1)やurokinase-type plasminogen activator(uPA),サイトカインや増殖因子などはケラチノサイトの遊走・増殖に関与する重要な因子である.私達はこれまでに,蛍光抗体法により,(1)褥瘡部遊走表皮細胞におけるα5β1,αvβ6インテグリン発現の変化を,急性創傷(熱傷)でのそれらと比較して検討した.(2)また,これらのインテグリン発現の変化と遊走表皮の病理組織学的所見,ラミニン染色所見(再上皮化の進行状況の指標になる)との関連性の有無を検討した.(3)さらに,これらのインテグリンのリガンドであるフィブロネクチンの真皮内分布を検索した.その結果,褥瘡部遊走表皮細胞におけるα5β1発現は11例中8例で,またαvβ6発現は11例中10例で熱傷(6例)でのそれらに比べて減弱ないし陰性化していた.これらのインテグリン発現の減弱ないし陰性化は,病理組織学的所見ならびにラミニン染色所見で表された表皮遊走の遅延と良く関連していた.熱傷,褥瘡ともに表皮真皮接合部位におけるα5β1発現陽性部の距離とラミニン発現陰性部の距離との間には統計学的な相関性が証明され,これらの遊走表皮細胞におけるα5β1発現は表皮遊走の指標になることが明らかになった.全般に,褥瘡でのα5β1発現陽性部ならびにラミニン発現陰性部の距離は熱傷に比べて少なかった.また,褥瘡の11例中7例において,遊走表皮直下の真皮内フィブロネクチン分布が減少していた.以上の結果より,褥瘡における遊走表皮細胞のインテグリン(α5β1,αvβ6)発現陰性化ならびに真皮内フィブロネクチン分布減少が再上皮化遅延に関与している可能性が考えられた.
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