研究概要 |
Actinobacillus actinomycetemcomitans CDTについて-A.actinomycetemcomitansはCDTを培養上清に分泌することを明らかにしている。本研究ではCDTの各サブユニットCdtA, CdtB, CdtCに対する抗体を用いてA.actinomycetemcomitans CDTをクローン化した大腸菌を用いて、CDTの複合体形成と分泌との関係について明らかにした。各抗体を用いた免疫沈降実験により、CDTはペリプラズム画分ではCdtA, CdtB, CdtCが複合体を形成していることを明らかにした。一方、培養上清中ではCdtAのN末端がさらにプロセシングを受け、分子量の小さなCdtA', CdtB, CdtCが複合体を形成していることが明らかとなった。A.actinomycetemcomitans CDTのサブユニットはシグナル配列を持ち、2型分泌機構によって分泌されると考えられるが、CdtAのシグナル配列はシグナル切断部位にLVACS配列を持ち、脂質修飾を受けてシグナルペプチダーゼIIによって切断される可能性を見出した。そこで放射性ラベルパルミテート、あるいはグリセロールを用いてCdtAが脂質修飾を受けていることを明らかにし、このシグナル配列切断がシグナルペプチダーゼII特異的阻害剤グロボマイシンによって阻害されることを示した。以上の結果からA.actinomycetemcomitans CDTはサブユニットが合成されたのち、それぞれ分泌され脂質修飾されたCdtAとCdtB, CdtCがおそら外膜上で複合体を形成し、そののちCdtAのプロセシングを受けた後に菌体外へ分泌される可能性が示唆された。またA.actinomycetemcomitans臨床分離株の中で著しく強いCDT活性を示す株のCDT遺伝子の塩基配列を調べたところ、毒素活性の本態を担うCdtBの281番目のアミノ酸のSNPが比活性の強さを左右することを明らかにした。 Actinobacillus actinomycetemcomitans OMPについて-A.actinomycetemcomitansは複数の外膜タンパク質を保有するが、その中でOmp100は様々な生物活性を持つ事を明らかにしている。本研究ではA.actinomycetemcomitansがヒト歯肉上皮細胞に抗菌ペプチド、hBD2, hBD3, CAP18産生を誘導することを明らかにし、菌側の主な誘導因子がOmp100であることを示した。また阻害剤を用いた実験の結果、hBD2の産生誘導はNF-kB経路ではなく、MAPキナーゼ経路を介すること、Omp100はファイブロネクチンと結合し、インテグリンα5β1を介して細胞内へシグナルを伝えることが示唆された。また菌体との接触によりヒト歯肉上皮細胞から分泌される炎症性サイトカインもhBD2の産生を誘導することを示した。このように抗菌ペプチドの産生誘導が菌体の上皮細胞への接触と、それによって誘導されるサイトカインとの2段階でおこることを明らかにした。
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