研究概要 |
成人性歯周炎の罹患率のピークは50-60歳にあるが,Porphyromonas gingivalisを含む種々の歯周病原性細菌は,歯周疾患の見られない小児や20歳代の成人の口腔にも比較的高頻度で定着していることを我々は見出し報告した.従って,本疾患の発症には歯周病原性細菌の定着,増殖,およびプロテアーゼやリポ多糖などの細菌由来病原因子による組織障害や炎症反応の惹起だけでなく,宿主側の要因,特に自然免疫系の関与とそれらの間でのバランスが疾患の発症に関与しているものと考えられた.本年度は前年の研究成果に基づき,口腔細菌由来プロテアーゼ活性発現の分子機構の詳細と,各種プロテアーゼに対する自然免疫担当因子と考えられる粘液プロテアーゼインヒビター(MPI)の作用について以下の検討を行い成果を得た. 1、MPIのリコンビナントタンパク質発現系:Hisタグを有するMPIリコンビナントタンパク質の大量発現系について種々の検討の結果,rMPIは誘導により封入体を形成し,大腸菌発現系からの封入体の回収と可溶化により精製が可能であることが明らかとなった. 2、口腔細菌由来プロテアーゼ活性に対するMPIの効果:口腔細菌由来プロテアーゼとしてグルタミン酸特異的プロテアーゼ(GluSE)を取り上げ,V8プロテアーゼ,トリプシン他のプロテアーゼに対するMPIの活性阻害作用を測定した.その結果,MPIはGluSE他のプロテアーゼに対してin vitro反応系では顕著な阻害活性を持たないことが明らかとなった.さらに,GluSE分子種についての2次元電気泳動と質量分析,N末端アミノ酸分析による解析から,シグナルペプチドおよびプロ配列を決定した.セリンプロテアーゼであるGluSEでは,プロ配列の存在によりプロテアーゼ活性の顕著な阻害が見出され,細菌性セリンプロテアーゼの成熟過程についての新たな知見が得られた.
|