研究課題
基盤研究(C)
大脳皮質一次体性感覚野(SI)は末梢からの体性感覚情報の大脳皮質への主要な入力部であり、皮質感覚野に入力した感覚情報が皮質内神経回路で処理されることにより、感覚入力が認知されることとなる。そこで咀嚼時に生じた体性感覚情報がどの程度皮質感覚野に到達するか覚醒ウサギを用いて検討した。覚醒下で機能的マッピング法により同定したSI顔面・口腔領域から下歯槽神経(IAN)刺激に応答する神経の単一神経活動記録を行い、IAN誘発応答を安静時と試料咀嚼時で比較した。咀嚼時のデータは、全咀嚼過程を3つの咀嚼期に分け、それぞれの咀嚼期ごとに解析し、以下の知見を得た。1.大多数のニューロンが咀嚼と関連した活動を示した。2.多くのニューロンでIAN誘発応答は咀嚼時に抑制された。3.IAN誘発応答の平均抑制効果には咀嚼期間で有意な差は認められなかった。4,下唇に感覚受容野をもつ13個のニューロンについて感覚受容野の局所麻酔が咀嚼関連活動に及ぼす効果を調べたところ、咀嚼時IAN応答の抑制効果が弱いニューロンの全て(6/6)の咀嚼関連活動が麻酔により著しく減弱したのに対し、咀嚼時にIAN応答が強く抑制されるニューロンの多く(5/7)では、受容野麻酔後も咀嚼関連活動に変化が認められなかった。以上より、1)顔面・口腔領域から大脳皮質にいたる感覚上行路での体性感覚情報伝達は咀嚼時には一般に抑制されるが、平均抑制効果を考慮すると、全咀嚼期を通して相当量の体性感覚情報が大脳皮質に到達すること、2)大脳皮質体性感覚野には咀嚼時に末梢の感覚受容器に加えられた刺激ではなく他の脳部位からの入力によって活動するニューロンが存在することが明らかになった。これらの事実から、face SIにおいて咀嚼時に実際に生じた体性感覚情報と脳内で形成した何らかの情報(例えば期待される感覚)の照合が行われていることが示唆された。
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