研究概要 |
実験にはSD系雄性ラットを用いた。ウレタン・クロラロース麻酔下で,ニューロペプチドY(NPY)の第4脳室内滴下投与(0.3-3.0nmol)により,胃近位部に用量依存性の弛緩が生じた。NPY投与による弛緩は,腹部迷走神経切除またはアトロピンの静注後には見られなかった。Y1受容体のアゴニストである[Leu31,Pro34]NPYの投与は,NPYよりさらに大きな弛緩をもたらした。一方,Y2受容体のアゴニストであるNPY13-36の投与は何ら効果を示さなかった。[Leu31,Pro34]NPYの迷走神経背側複合核群(DVC)への微量注入を行った。筆洗より後方部のDVC内注入により弛緩が惹起された。この部位へのY1受容体のアンタゴニストである1229U91の微量注入後には,NPYの第4脳室内滴下投与による弛緩は見られなかった。以上の結果から,NPYはDVC後方部のY1受容体を介して,迷走神経のトーンを減弱することにより,胃近位部弛緩をもたらすことが明らかになった。グレリンの第4脳室への滴下投与でも,NPYと同様に胃近位部に用量依存性の弛緩が生じた。この弛緩はグレリン受容体のアンタゴニストである[D-Lys3]-GHRP-6の前投与で見られなくなったので,グレリン惹起性の胃弛緩は延髄のグレリン受容体を介して生じることが示された。覚醒下のラットを用い一回あたりの摂餌量(meal size)を計測した。12時間明:12時間暗の条件で,暗期にのみ餌と水を与えた。給餌開始20分前に[D-Lys3]-GHRP-6を静注した。アンタゴニスト投与群では,溶媒投与群に比して給餌開始3時間の摂食量が減少し,第1回目の摂食のmeal sizeも減少した。グレリン受容体のアンタゴニストがmeal sizeを減少させることから,グレリンの摂食亢進作用に,胃弛緩による食物受け入れ容量の増加が関与することが示唆された。
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