マクロファージにおけるケモカインなど炎症性遺伝子の発現は、リポ多糖(LPS)やinterferon-γ(IFNγ)により増強され、この遺伝子発現にはLPS、IFNyによって活性化される転写因子NF-κBやSTAT1が関与している。本研究課題では、NF-κBやSTAT1によって誘導されるケモカイン遺伝子CXCL9の転写制御にP38MAPキナーゼがどのような役割を演じているのか明らかにする目的で解析を行ってきた。本年度の研究課題は、LPS、IFNγによって相乗的に誘導されるCXCL9遺伝子の発現におけるSTAT1のセリン残基(Ser727)のリン酸化の役割について解析を行った。従来よりマクロファージにおいてLPS、IFNγは、Ser727のリン酸化を増強することが知られおり、IFNyによって誘導されるSTAT1依存性の転写活性は、LPSとの共刺激により増強され、そのメカニズムにp38MAPKによるSer727の亢進が関係することが報告されている。そこでLPS、IFNγの共刺激によりSer727のリン酸化が相乗的誘導されるのか抗STAT1 Ser727抗体を用いたウエスタンブッロットにて検討した。その結果、LPSで誘導されるSer727のリン酸化は、LPSとIFNγの共刺激で若干の相加的作用は認められたが遺伝子発現で認められるような相乗的な作用は認められなかった。このLPSによるSer727のリン酸化はp38MAPKの阻害剤SB203580により抑制されたが、ERK阻害剤の影響は受けなかった。そこでLPS以外のp38MAPKの活性化剤がSTAT1のSer727のリン酸化を増強し、IFNγによるCXCL9の発現を相乗的に誘導することができるのか検討した。p38MAPKの活性化剤anisomycin、sodium arseniteを用い、IFNγによるCXCL9の発現誘導についてノーザンプロットにて検討したところLPSとIFNyで認められるような相乗的な発現は認めらなかった。これらの結果は、p38MAPKはSTAT1のSer727のリン酸化を誘導するが、STAT1のSer727のリン酸化の増強だけではCXCL9遺伝子の転写活性の増強は誘導されないことを示している。LPSは、p38MAPKの活性化だけではなく、転写因子NF-κBも誘導することから、NF-κBとIFNγによって誘導されるSTAT1を介したエンハンソームの形成がCXCL9遺伝子の相乗的な転写活性誘導に必要であることが示唆された。また抗炎症薬sulindacは、マクロファージおける構成的なNF-κBを抑制することによってIFNγ誘導性CXCL9遺伝子の発現を抑制したことからも、IFNγ誘導性遺伝子の発現におけるNF-κBの重要性が明らかとなった。
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