リポ多糖(LPS)やインターフェロンガンマー(IFNγ)は、マクロファージにおいてケモカインなどの炎症性遺伝子の発現を相乗的に誘導する。この遺伝子発現にはNF-κBやSTAT1などの転写因子が関与するが、この転写制御にLPSやIFNγによって活性化されるリン酸化酵素がどのような役割を持っているのかは十分には明らかにはされていない。本研究課題では、LPSとIFNγによって相乗的に誘導されるケモカイン遺伝子CXCL9の転写制御におけるp38MAPキナーゼ(p38MAPK)の役割を検討するため解析を行い以下の結果が得られた。 1)p38MAPKが核内においてLPSによって誘導されるNF-κB依存性転写活性を制御しているのか検討するため、Gal4のDNA結合領域にNF-κB RelAの転写活性化領域を結合させた発現ベクターをマクロファージ様RAW264.7細胞にGal4の結合配列をもつレポーター遺伝子とともにトランスフェクションし、ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、LPS刺激により、RelA依存性の転写活性は増強し、その転写活性の増強はp38MAPKの阻害剤によって抑制された。 2)p38MAPKがLPSとIFNγによって相乗的に誘導されるCXCL9遺伝子のプロモーター上でのエンハンソームの形成に関与しているのかクロマチン免疫沈降法を用いて検討した。その結果、LPSとIFNγとの共刺激によりSTAT1、RelAならびにRNAポリメラーゼIIのリクルートが相乗的に増強し、この増強作用はp38MAPKの阻害剤によって抑制された。 3)LPS、IFNγ刺激で誘導されるSer727のリン酸化は、LPSとIFNγの共刺激で若干の相加的作用は認められたが遺伝子発現で認められるような相乗的な誘導効果は認められなかった 4)p38MAPKの活性化剤としてanisomycinを用いIFNγによるCXCL9の発現誘導についてノーザンプロットにて検討したところLPSとIFNγで認められるような相乗的な発現は認めらなかった。これらの結果は、p38MAPKはSTAT1のSer727のリン酸化を誘導するが、STAT1のSer727のリン酸化の増強だけではCXCL9遺伝子の転写活性の増強は誘導されないことを示している。 以上の結果から、p38MAPKは、LPS、IFNγによるNF-κBならびにSTAT1を介したCXCL9遺伝子の転写制御に関与し、そのメカニズムはCXCL9遺伝子プロモーター上でのエンハンソームの形成を介した相乗的な転写活性の誘導に関与していることが示唆された。
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