研究概要 |
本年度は細胞培養実験における交感神経興奮薬とニューロペプチドの相互作用を検討するため、骨芽細胞に対するβ-アドレナリン作用薬とニューロペプチドの相互作用、および破骨細胞形成に関わるβ-アドレナリン作用薬とニューロペプチドの相互作用を解析している。すなわち、β-受容体作用薬のイソプレナリンにより観察された骨芽細胞のIL-6,IL-11,cyclooxygenase II,RANKLおよびOPGなどの産生促進効果に対するCGRP,VIPおよびNPYの効果、およびイソプレナリンにより観察されたマウス骨髄細胞培養系での破骨細胞形成促進に対するVIP,CGRPの効果を調査し、培養細胞中のRANKLおよびOPGの発現動態を遺伝子および蛋白レベルで検討している。その途上、イソプレナリンがヒト骨芽細胞の増殖を抑制し、その作用にcAMP依存性のタンパクリン酸化酵素の活性化に基づくphosphorylated extracellular signal regulated kinase(p-ERK)レベルの低下が介在していることを明らかにしている.(1)ヒト骨芽細胞(SaM-1細胞)において、イソプレナリンが3-300nMの濃度において細胞増殖を僅かではあるが有意に抑制した。(2)イソプレナリン(10-300nM)およびフォルスコリン(15-75μM)は、用量依存的にcAMPの産生を促進するとともに、PKA活性を促進した。このPKA活性の増加はcalphostin Cにより抑制された。(3)SaM-1細胞におけるp-ERKは定常状態において高いレベルで維持されていたが、イソプレナリン(10nM)およびフォルスコリン(20μM)により著しい低下が認められた。これらの知見は、β-作用薬がヒト骨芽細胞の増殖に対して抑制的影響を及ぼすこと、その抑制的影響にp-ERKの低下が関与している可能性を示している。この交感神経興奮薬による骨芽細胞の破骨細胞形成促進因子の産生活性に加えて増殖活性に及ぼすニューロペプチドの影響についても、今後の課題として検討を始めている。
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