研究概要 |
口腔粘膜における、びらん・潰瘍病変の発生におけるシグナル伝達異常を分子・遺伝子レベルで自然免疫系および獲得免疫系の両面より検索を行った。 1.自然免疫と口腔粘膜とのシグナル伝達異常の解明 侵襲細菌に特異的な分子をパターン認識して自然免疫を発動するToll-like receptor(TLR)系ならびにnucleotide-binding oligomerization domain(NOD)系分子について、ヒト口腔上皮における発現を検討した。 (1)培養上皮細胞ではTLR2,TLR4,NOD1およびNOD2発現がPCR法(遺伝子レベル)ならびにフローサトメトリーおよび免疫染色(タンパクレベル)で明確に認められた。同分子をそれぞれに特異的な合成リガンド(リポペプチド、リピドA、iE-DAP,MDP)で刺激すると、ベータデフェンシンを産生したことから機能を具備していることが証明された。(2)正常歯肉組織でもこれら分子は発現していたが、炎症歯肉組織ではその発現が亢進していた。(3)造血幹細胞移植後に発症する慢性GVHD患者ではドナーとレシピエントの免疫反応により、びらん・潰瘍病変(扁平苔癬類似病変)が認められる。病変部の頬粘膜ではNOD2の発現は認められるもののTLR2,TLR4,NOD1の発現は認められなかった。これらの知見より、ヒト口腔上皮はさまざまなパターン認識分子を介して侵襲細菌を認識し、抗菌物質などを産生して自然免疫応答に積極的に関与しているものと考えられた。 2.口腔粘膜と免疫細胞とのシグナル伝達異常の解明 (1)IL-18は抗原刺激がなくても種々の細胞に作用してTh1反応とTh2反応を促進する唯一のサイトカインである。口腔粘膜上皮におけるIL-18の発現を検討した結果、正常口腔粘膜ではIL-18の発現は上皮層の有棘層全体に発現していたが、慢性GVHDでは有棘層上層に限局して発現していた。 (2)Fas/FasLはアポトーシスにおいて重要な役割を果たす分子である。慢性GVHDでは浸潤細胞に発現が認められたが、上皮層では正常口腔粘膜と比較し発現は低下していた。
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