頭頸部疾患の検査のためコンピュータ断層撮影(CT)検査とパノラマX線写真検査を受けた60歳以上の患者のうち、CT画像で総頸動脈に石灰化が見られる患者のCTとパノラマX線写真の画像収集を行った。その結果、1.パノラマX線写真にて総頸動脈の石灰化の診断が下せるかどうかを検討したが、CT画像で総頸動脈に石灰化が確認されても、石灰化がわづかであったり、パノラマX線撮影時の頭部の位置づけによっては、パノラマX線写真上、石灰化は確認できないことがわかった。また、前後的に頚椎全体が描出されないパノラマX線写真も多く存在し、パノラマX線写真における頸動脈の石灰化は、頸椎の位置確認を行った上で初めて診断できることを考えると、パノラマX線写真で総頸動脈の石灰化の有無を判定するのは困難だと考えられた。続いて、2.パノラマX線写真における下顎骨下縁皮質骨の形態変化と、総頸動脈の石灰化との間の相関の有無を検討した。60歳以上で、CT画像にて総頸動脈に石灰化がある人とない人のパノラマX線写真それぞれ50枚づつを無作為に抽出し、下顎骨下縁皮質骨の形態を調べた結果、両者の間に明らかな有為差は認められなかった。両者とも男性、女性がほぼ同じ割合で含まれており、男性は下顎骨下縁皮質骨の形態変化が起こりにくいこと、総数が50例ずつと少ないことが原因と考えられた.また、3.総顎動脈の石灰化と残存歯との間の相関の有無を検討した。2.で用いたと同じパノラマX線写真100枚において、残存歯の総数を調べた結果、総顎動脈に石灰化がある人とない人との間に差が見られ、残存歯数の少ない人ほど、総頸動脈に石灰化がみられる傾向にあった。しかし、この結果の解釈には慎重な検討が必要であり、今後、残存歯数と総頸動脈の石灰化との関係、ひいては口腔衛生状態の不良が脳血管障害を引き起こす原因になり得るかについて、慎重に検討をしていく計画である。
|