口腔扁平上皮癌における化学療法剤耐性に関わっている分子(遺伝子)を明らかにする目的で、同一の口腔扁平上皮癌患者から樹立した原発巣由来腫瘍細胞株およびそのリンパ節転移巣由来腫瘍細胞株について化学療法剤およびTRAIL(TNF-related apoptosis-indusing ligand)に対する感受性について検討を行った。その結果、転移性腫瘍細胞は原発性腫瘍細胞と比較して、化学療法剤に対する感受性が低下している傾向が認められた。興味深いことに、抗Fas(CD95)抗体およびTRAIL誘導性細胞死に対して著明な抵抗性を示した。抵抗性を示す転移性腫瘍細胞株では原発性腫瘍細胞株に比べて、抗Fas抗体刺激によるCaspase3、caspase8の活性化およびCaspase8のタンパク質発現レベルは著明に低下していた。カスパーゼ活性化はin vitroキナーゼ測定法、タンパク質レベルはウエスタンブロット法を用いて検討した。そこで、転移性腫瘍細胞にCaspase8遺伝子を導入し、TRAILに対する感受性を調べたが、変化は認められなかった。近年、TRAIL/Fas-L誘導性アポトーシスにc-Jun NH2-terminal kinase(JNK)活性化が関わっていることが示されている。扁平上皮癌細胞を化学療法剤およびTRAILで刺激し、経時的に細胞を回収し、リン酸化部位特異的な抗体を用いたウェスタンブロット法によってJNK活性化を評価した。転移性腫瘍細胞では原発性腫瘍細胞に比べて化学療法剤刺激によるJNK活性化が遅れる傾向が認められ、TRAIL刺激に対してほとんど反応性を示さなかった。現在、優勢阻害型JNKおよびRNAi法を用いて、薬剤刺激によるアポトーシス誘導におけるJNKの役割について検討している。
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