研究概要 |
本年度は,異なる照射エネルギーによりレーザー処理された正常象牙質におけるレジンの接着性の変化と,それらの照射条件における象牙質表層の超微細構造学的性状変化とを比較検討した。 CO2レーザーの低出力(1w,0.3sec)および高出力(3w,0.3sec)照射象牙質の表層において,前者では外形不明瞭で横紋構造が消失し変性したコラーゲン線維を有する無定形の一層(1〜2μm)が形成された。しかし,後者では,横紋構造の存在するコラーゲン線維が引きちぎられた様な像が一般的に観察されたが,そのような変性層は形成されなかった。また,Er:YAGレーザーの低出力(60mJ,1pps)および高出力(250mJ,1pps)照射象牙質表層では,前者はコラーゲン線維の高次構造が破壊された無定形の一層(3〜4μm)が生じたが,後者では全く形成されず形態学的には正常象牙質と識別が一般的に困難であった。また,それに伴い接着試験においては,低出力照射ではレジンの接着性は有意に低下したが,高出力照射では,レジンの接着性は低下するものの低出力照射におけるそれよりは有意に高い傾向にあった。 このように,レーザーの照射エネルギーが大きいと,一般的にその影響は表層に限局され,高出力レーザー処理象牙質におけるレジンの接着性はあまり低下しないようであった。しかし,痛みなどの観点より臨床で実際に使用できる出力レベルにおいてはレジンの接着性は低下する。レーザー処理象牙質面に対し安定したレジンの接着を獲得するには,現段階では低出力照射により生じた構造欠陥や熱変性層をレジンの接着操作に先立って除去する必要があろう。このような成果を踏まえ,来年度はレーザー処理された象牙質の専用接着システムの骨格を設計し,試作品完成に到達したいと考えている。
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