研究概要 |
齲蝕病巣内の象牙細管に生息する細菌の菌体内多糖合成の動的変化を解析することは,象牙質齲蝕の発症ならびに進行機序を解明する上で重要である。申請者らは,Streptococcus mutansのスクロース輸送系において重要な役割を果たすホスホエノールピルビン酸依存糖ホスホトランスフェラーゼ系(PTS系)の関連酵素(スクロースエンザイムII)をコードする遺伝子(scrA)を欠失させた遺伝子改変株を作製した。この改変株を,スクロース濃度が異なる培地(BHI[培養条件(1)])ならびに5%スクロース含有BHI[培養条件(2)])中で前培養後,それぞれの培養液中に,エチレンオキサイドガス滅菌した象牙質板(3×7×0.3mm)を一定時間(37℃,48時間)懸垂した。培養終了後,象牙質板に付着した不溶性グルカン,培養液中の水溶性あるいは不溶性グルカンの重量をフェノール硫酸法にて測定することで,S.mutansの象牙質への付着能とscrAとの関連性を検討した結果,以下のような所見を得た。すなわち,培養上清中における非水溶性グルカンおよび水溶性グルカン産生量は,培養条件(1)では親株とscrA欠損株の間に有意な差は認められなかったが,培養条件(2)ではscrA欠損株は親株に比べ有意に低い値を示した。また,象牙質板に付着した非水溶性グルカン産生量も,scrA欠損株は親株に比べ有意に低かった。このことから,scrAを欠損させることにより,スクロースの代謝経路が部分的に遮断されたことが考えられ,scrAがS.mutansの歯質への付着能に大きく関与していることが示唆された。
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