研究概要 |
齲蝕病巣内の象牙細管に生息する細菌の菌体内多糖合成の動的変化を解析することは,象牙質齲蝕の発症ならびに進行機序を解明する上で重要である。申請者らは,象牙細管中に密集する細菌における菌体内多糖合成に,種々の関連遺伝子がどのように関連しているのかを検討すべく,com関連遺伝子(comCおよびcomX)およびPTS系の関連酵素(スクロースエンザイムII)をコードする遺伝子(scrA)をノックアウトした遺伝子改変株を作製し,象牙質板を用いたグルカン合成量の測定ならび形態学的検索を行った結果,以下のような所見を得た。1)光学顕微鏡像より測定した象牙細管の直径は,いずれのcom関連遺伝子改変株においても,菌の侵入が認められる細管において,そうでないものよりも増加していた。しかしながら,その増大率はすべての菌株で,5%スクロースの添加により大きくなる傾向を示した。特にcomC欠損株およびcomX欠損株においては,BHI培養(24日間)後の細管径の増大率と,BHI培養後にスクロース無添加トリプチケースソイブロス(TSB)(2日間)および5%スクロース添加TSBによる連続培養を行った場合の細管径の増大率との間に有意差を認めた。2)BHI培養(24日間)時において親株と比較してcomC欠損株,comX欠損株の象牙細管径の増大率は有意に減少していた。3)培養上清中における非水溶性グルカンおよび水溶性グルカン合成量は,スクロース非存在下では親株とscrA欠損株の間に有意な差は認められなかったが,スクロース存在下ではscrA欠損株は親株に比べ有意に低い値を示した。また,象牙質板に付着した非水溶性グルカン合成量も,scrA欠損株は親株に比べ有意に低かった。以上の結果より,今回検討した関連遺伝子が,象牙細管内での菌体内多糖合成能に影響を及ぼしていることが示唆された。
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