研究概要 |
私たちは,歯髄の生死を決定付ける因子としてVR-1とPAR-2について検討した.侵害性受容体VR1(TRPV1)の内因性リガンドであるアナンダマイド(AEA)が歯髄細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導することを明らかにした。詳細は以下の通りである。1)AEAは、濃度依存的(10〜30μM)に歯髄細胞のCell viabilityを減少させた。これは、MTTアッセイと細胞形態により確認された。2)AER(5μM)で24時間制激して細胞をPropidium Iodide(PI)処理し、蛍光顕微鏡で観察したところ核の断片化が見られた。3)さらにAEA(10μM)で24時間刺激した細胞をPI処理し、DNA量をフローサイトメトリーにて分析したところ、SubG0/G1すなわち細胞の増殖が停止している細胞集団が見られた。4)AEAの別の受容体であるCB2レセプターの発現を確認した上で、そのアンタゴニストとVR1アンタゴニストによるAEAの細胞死抑制をみたところ、VR1よりCB2の関係が深いことがわかった。5)MAPキナーゼの影響を調べたところ、ERKの関係が強く示唆された。以上より、AEAによる阻触細胞のアポトーシスは、CB2、VR1、ERKを介することが明らかとなった。 また,PAR-2は歯髄細胞にRNA,タンパクレベル両方において発現していること,および炎症性因子であるIL-6およびTNF-aの発現に関与していることを確認している.そこで,今回はPAR-2を介する神経ペプチドであるサブスタンスP(SP)の歯髄細胞における炎症反応に対する関与について以下の結果を得たので報告する.1)SPは,歯髄細胞に対してIL-6産生を濃度依存的に誘導していた.その作用時間は刺激後24時間から48時間で上昇していた.2)SPによるIL-6産生誘導は,ERK MAPキナーゼとp38 MAPキナーゼに対する特異的阻害剤で抑制されたが,JNKに対する特異的阻害剤では阻害されなかった.3)SPによるIL-6産生誘導は,転写因子AP-1とSp-1に対するsiRNAをトランスフェクションした細胞において抑制された.以上より,サブスタンスPで誘導される炎症性ファクターIL-6の産生誘導は,ERKおよびp38 MAPキナーゼと転写因子Ap-1およびSp-1を介することがわかった. 現在,この結果を踏まえてSPの誘導に関与するPAR-2の役割を分析中である.今のところ,MAPキナーゼや転写因子に関して両者のスイッチとなるファクターの同定はできていない.今後,VR-1とPAR-2に関与するシグナルに関与するMAPキナーゼや転写因子の詳細を検討し,歯髄の生死に炎症反応がどう関わるかを追求する予定である.
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