研究概要 |
根管内に残存する菌体内毒素(LPS)は,根尖性歯周炎に件う根尖周囲骨の骨吸収過程において重要な役割を演じている.免疫細胞やその他の生体細胞はLPSに強い感受性をもっており,そのために微量でも確実に細胞に影響を及ぼすことになる.したがって,根管内に残存したLPSは歯内治療の成否に重大な影響を及ぼすことになる. 水酸化カルシウムの細菌に対する作用として,持続的な消毒作用と並んで,LPSのもつ生物活性を変化させることが報告されている.しかし,個々の生物活性に与える詳細な影響に関する研究は少ない.そこで今回,水酸化カルシウムのLPS生物活性への影響を検討する一環として,LPS刺激時のヒト歯根膜由来線維芽細胞におけるIL-1α,IL-1β,IL-6,IL-8およびTNF-αの5種類の炎症性サイトカインのmRNA発現に対する水酸化カルシウムの影響をRT-PCR法により検討した.結論は次のとおり. LPSと水酸化カルシウムで刺激したヒト歯根膜由来線維芽細胞の炎症性サイトカイン遺伝子発現を比較することによって,水酸化カルシウムがLPSの生物活性を変化させるかどうかを検討したところ,次のような結果を得た. 1.LPSで刺激したHPLFにおいて,IL-6およびIL-8はすべての作用時問での遺伝子発現が認められたが,TNF-αの遺伝子発現は6時問作用群のみで認められた. 2.IL-1α,βの遺伝子発現は認められなかった. 3.水酸化カルシウムは,LPSによるIL-6,1L-8およびTNF-αの遺伝子発現を抑制することが認められた. この結果は,水酸化カルシウムがLPSによって惹起される炎症性反応およびそれに件う骨吸収を抑制することを示唆している.LPSは,熱や化学薬品に対して安定性が高いために,根管消毒後の根管内においても,死菌内や遊離した状態で存在すると考えられる.したがって,ケモメカニカルクリーニングにより根管消毒を行い,残留したLPSを水酸化カルシウムを貼薬することにより不活性化するという意味で,根管貼薬剤としての水酸化カルシウムの有用性が考えられる.
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