研究概要 |
近年,大脳生理学などの分野では人間の脳機能を可視化できるfunctional MRI(以後, fMRI)が注目されている.また,医療や介護領域では摂食・嚥下リハビリテーションへの関心が高く,口腔内外の感覚刺激や運動訓練が行われ,また,歯科学領域では「咀嚼運動は脳を賦活させる」と言われるが,いずれも客観的根拠はない.「咀嚼して嚥下する」という本来の摂食機能がもつ意義を,高次脳の観察を行うことにより明らかにしていくことが本研究の最終目的である。 17,18年度は現場の都合上,実際の撮影は行えなかったが,想定したタスクである仰臥位での舌運動,タッピング運動,開閉口運動時の頭部動揺を調査し,これらの運動時の頭部動揺はヘッドレストやテーピングにより減少させることができた.19年度は,味覚刺激タスク時のfMRIの撮像を行い,解析可能になった. 20年度は,被験者として脳障害の既往がない健常者2名(20歳代男性,30歳代女性,いずれも右利き)を対象に,シーメンス社製MAGNETOM Symphony(1.5T)にて,口唇突出運動,タッピング遮動,開閉口運動,舌突出運動,舌頬押し運動,口腔内ボールころがし運動,パラフィン自由咀嚼運動およびガム自由咀嚼運動時のfMRIを撮像した.撮像方法はマルチスライスEPI法で行い,シーケンスパラメータはFOV230mm, TR4000ms, TE50ms, Voxel size3.6×3.6×3.0で行った.fMRIの画像解析にはStatistical parametric mapping software(London, UK)を用いた. その結果,各タスク時の高次脳の活動部位は,一次運動野の領域で共通しているが,詳細な活動部位は異なっていた.また,3種の舌運動タスクでは左右差はみられないが,自由咀嚼タスクでは左右差がある可能性が示唆された.
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