金銀パラジウム合金鋳造体表面の変色しやすい元素を選択的に溶解除去することにより耐変色性を改善することを目的に、選択溶解処理液の探索とその除去性能について検討した。銀の選択溶解による除去の可能性を探るため、(1)20%硝酸水溶液中に試料を5分間浸漬して銀を溶解する方法と、(2)試料を次亜塩素酸ナトリウム溶液中に10分間浸漬して生成した塩化銀を2%チオ硫酸ナトリウム溶液または5%アンモニア水に5分間浸漬して除去する2つの方法を検討した。20%硝酸水溶液に浸漬した処理面は金属光沢を持ち、肉眼的には未処理面と差がみられなかった。SEMの2次電子、反射電子のいずれの像においても未処理面と処理面には差はなく、反射電子像からAgリッチ共晶組織とCuリッチ相から成っていることが認められた。XPS分析より処理面のAg濃度は低下し、AuおよびPd濃度は増加した。一方、次亜塩素酸ナトリウム溶液浸漬後の金属面は肉眼的にはほぼ全面にわたり黒色に変色した。SEM観察から共晶組織に1μm以下の立方晶から成る析出物が認められたが、Cuリッチ相には析出物がみられなかった。EDXによる点分析の結果、この析出物は塩化銀であると推測された。その後チオ硫酸ナトリウム溶液またはアンモニア水に浸漬すると黒色の塩化銀は除去され、金属光沢を呈した。XPS分析の結果、Ag濃度に変化はみられなかったが、Cuが低下しAu、Pdが増加した。以上の結果より、硝酸処理を行うと鋳造体表面から比較的均一にAgが除去され、Au、Pd濃度が増加した。一方、次亜塩素酸処理後チオ硫酸ナトリウム溶液またはアンモニア水処理すると、塩化銀析出相が選択的に溶解され、Au、Pd濃度の増加がみられた。いずれの処理においても、鋳造体表面の銀の選択溶解が生じ、Au、Pd濃度が上昇するため、耐食性の向上が期待される。
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