研究概要 |
咀嚼筋の機能の客観的評価の可能性を明らかにする目的で,まず健常者に最大クレンチングの80%のクレンチング(80%MVC)を10秒間維持させた時の咬筋筋活動をEMGで記録後、筋活動の原波形とEMGパワースペクトルを同時にコンピュータのディスプレイに表示できるプログラムを作成した.次いで,20歳代の女性健常者10名(健常群)と女性筋原性側頭下顎障害(TMD)患者10名(TMD群)に80%MVCを10秒間維持させた時の咬筋筋活動をEMGで記録後、作成したプログラムを用いて,クレンチング開始1秒後からの9秒間を3秒間ごとの3区間(第1区間〜第3区間)に分け,各区間における咬筋筋活動の積分値とMPF値をそれぞれ算出後,第1区間を100%とした場合の第2,第3区間における咬筋筋活動の積分値の相対値について,被験者群ごとに経時的変化を調べた.また,第1区間を100%とした場合の第2,第3区間におけるMPF値の相対値について,両群間で比較した.その結果、咬筋筋活動の積分値は,各区間がいずれも100%に近似し,経時的変化が認められなかった.第1区間を100%とした場合の第2,第3区間のMPF値の相対値は,健常群の方がTMD群よりも有意に小さかった.これは,健常群とTMD群との間にクレンチング中の筋機能に差異があることを示し,TMD群では,異常な筋機能を呈しているものと考えられる.これらのことから,短時間の強いクレンチング時のEMGパワースペクトルは,TMD患者と健常者との間に明らかな差異があること,またEMGパワースペクトルのMPF値は,咀嚼筋の機能的評価の有効な指標となることがそれぞれ示唆された.
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