研究概要 |
癌の浸潤・転移は基本的に細胞がもつ固有の位置情報の変化が原因と考えられる.発生過程における位置情報のマスター因子としてHOX遺伝子群(ホメオボックス遺伝子のひとつのファミリー)が知られている.HOX遺伝子群は4つの異なった染色体上に9〜11個のHOX遺伝子からなる遺伝子集合体(クラスターA, B, CおよびD)として存在し,合計39個存在する. まず,口腔癌におけるHOX遺伝子の発現プロファイルを明らかにする目的で,正常口腔粘膜,異形成および扁平上皮癌組織におけるHOX遺伝子群のmRNAレベルの発現をリアルタイムRT-PCR法で定量した.その結果,扁平上皮癌組織では,異形成および正常粘膜組織に比べ明らかに異なったHOX遺伝子の発現パターンを示した.HOXA2,A3,B3およびD10の発現が正常粘膜組織より異形成組織において有意に高く,HOXA1,B7,B9およびC8の発現が異形成組織より扁平上皮癌組織において有意に高く,18個すべてのHOX遺伝子の発現が正常粘膜組織より扁平上皮癌組織において有意に高かった. 次に,HOX遺伝子の発現と口腔癌のリンパ節転移との関連性を明らかにする目的で,口腔扁平上皮癌のリンパ節転移陽性群と転移陰性群におけるHOX遺伝子の発現プロファイルの差を検索した.その結果,リンパ節転移陽性群におけるHOXC5,C6およびC8の発現は,リンパ節転移陰性群に比べ高い傾向を示した.とりわけHOXC6の発現はリンパ節転移陽性群において有意に高かった(p<0.01,Mann-Whitney U test). 以上より,特定のHOX遺伝子の発現プロファイルが口腔癌のリンパ節転移を予測しうることが示唆された.
|