研究概要 |
本研究では,口腔癌患者の術前化学療法併用放射線治療に対する治療効果の予測因子を明らかにすることを目的に,生検材料ならびに生体の低酸素状態を評価し,癌抑制遺伝子p53ならびにその関連遺伝子の検索を行った. 対象症例数は,放射線単独治療群15例,化学療法併用放射線治療群は20例で,計35例において, 1)治療成績が,病理組織学的に有効と判定されたのは,放射線単独治療群では26%に対し,化学療法併用放射線治療群65%であった。5年生存率は,放射線単独治療群では約40%,化学療法併用放射線治療群では95%と有意に改善していた. 2)化学療法併用放射線治療群において,生検材料を用いて癌抑制遺伝子,p53ならびにp53依存性リボ核酸還元酵素遺伝子,p53R2の発現を免疫組織学的に検討した.p53陽性率は80%,p53R2陽性率は73.3%であった.p53陽性・陰性,p53R2陽性・陰性を組み合わせ,4パターンで統計学的に治療効果を予測する組み合わせは明らかではなかった. また,口腔がん組織がさらされている低酸素状況で発現が誘導される転写因子(hypoxia-inducible-factor 1α,HIF-1α)によって発現制御される血管新生因子(VEGF)と,血管新生に影響を与えるAngiopoietin-like 4(ANGPTL4)がどのように相互作用するか基礎的検討を加えた.その結果,低酸素下では,HIF-1αによってVEGFならびにANGPTL4はともに発現増強するが,ANGPTL4はVEGFに対して抑制的に作用することが明らかとなった. 以上の結果から,P53関連遣伝子,低酸素関連遺伝子のみで予測するためには生検材料のみではなく,治療途中における低酸素状態の評価も重要であることが示唆された.
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