研究概要 |
骨膜には骨形成細胞や血管内皮細胞に分化する組織幹細胞が存在する。顎顔面領域における術後の骨欠損修復にこうした骨形成細胞を用いた組織再生医療の開発が進められている。われわれは、この研究課題で、口腔外科患者から採取した骨膜組織を21日間、組織培養を行い、骨膜の骨形成層由来のBMP-2, -4を発現する骨形成細胞と血管内皮形成細胞の増殖・分化に成功した。そして、これらの細胞を三次元コラーゲン担体と混合培養を行い、骨膜由来細胞と三次元コラーゲンの複合移植体を作製した。この複合体を、免疫抑制を行ったSprague Dawleyラットの頭蓋骨に作製した直径4mmの脳硬膜に達する円柱状の骨欠損部に移植を施行した。移植後に14、28日後に摘出を行い、マイクロCT観察にて三次元骨梁構造とBV/TV%計測を行い骨定量をした。またパラフィン切片を作製して骨形成過程を組織学的に、観察を行った。その結果、移植群では、骨欠損部において移植後14日目には活発な細胞増殖とその周囲に新生骨様組織が観察された。これらの細胞は骨芽細胞マーカーRunx2の発現が認められた。また移植後28日目には、骨組織は骨欠損部内で成長する様子が観察された。また非移植群では、欠損部では線維性組織の造成と周囲骨からのわずかな骨形成が観察された。またRUNX2/Cbfa1陽性骨形成細胞はわずかに観察されるのみであった。形成された骨量は移植群が約45%で、非移植群が約5%と、有意に移植群に骨形成が観察された。血管新生は、移植群に多くに観察されたが、非移植群にも観察され有意な差は見られなかった。これは移植組織から誘導される血管新生ではなく、移植後に周囲組織からの血管新生が骨組織または骨欠損組織に生じた事が推察された。この結果、今後は移植組織内に血管形成細胞を移植するよりも周囲からの血管誘導を促進するVEGFsやBMP-4などを放出する手法の検討が必要と思われた。この研究課題から1)ヒト骨膜細胞由来細胞の骨欠損部での骨形成能が示唆された。2)骨欠損部での骨形成過程における血管形成は移植組織内からではなく周囲組織から誘導される。移植組織内への血管誘導因子等の輸送システムが今後の研究課題である事が示唆された。
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