研究概要 |
【目的】 胚性未分化(ES)細胞は、さまざまな細胞に分化することが可能であることから,近年再生医療への応用が期待されている.これまでに、われわれは、アフリカツメガエルにおいて、TGF-βスーパーファミリーに属するアクチビンA処理した,胞胚期の予定外胚葉領域(アニマルキャップ)由来未分化細胞と未処理細胞を混合し,再集合培養を行うと,効率よく均一な顎顔面軟骨が誘導出来ることを報告した^<1-3)>)。さらに,再集合体を正常胚腹部に移植することにより,頭部の位置情報を保持したまま眼,顎骨や歯胚の誘導が可能であることも明らかにした。そこで、本系をさらに応用、発展させ、マウスES細胞から顎顔面の位置情報を持つ組織の誘導を試みた。 【方法】 フィーダー細胞を用いない無血清培養系にて未分化性を維持したES-D3細胞^<4)>を,TGF-βスーパーファミリーに属し中胚葉組織誘導能を持つNodalで処理、あるいはBMP-4で処理を行い、それぞれ胚葉体(embryoid body, EB)を形成させた。続いて、これらEBを再集合し、さらに培養を行った後のEBを組織学的ならびにRT-PCR法を用いて解析した。さらに、再集合培養系において、顎顔面領域の軟骨組織を形成する条件と、頭部組織より後方の脊索を誘導する2群の再集合体からRNAを抽出後、Xenopus DNAマイクロアレイ法を用いて顎顔面領域に発現する遺伝子の検索を行った。 【結果と考察】 4週間培養後の再集合体には、アルシアンブルーならびに2型collagen陽性の軟骨組織を認めた。また、頭部に発現するOTX-2ならびにneural crest形成に関与するAP2の発現を認めたことから,この再集合体は頭部の位置情報を持つことが明らかとなった。以上のことから、本培養系は,種々の器官発生メカニズムの解明ならびに今後の再生医療に向け、有用なモデルとして発展できると考えられる。 さらに、Xenopus DNAマイクロアレイ法を用いて、顎顔面領域に発現する遺伝子の検索を行ったところ、neural crest形成に働くと考えられる遺伝子群を同定した。これら遺伝子群の中に、タマリン遺伝子の上昇を認めた。タマリンについて、in situ hybridization法を用いてその発現を検索したところ、眼、鰓弓、顎軟骨、歯胚に発現していることが明らかとなった。また、タマリンのAntisense-Morphorino oligoを作成し、8細胞期にマイクロインジェクションを行ったところ、インジェクション側において、脳組織、眼球の形成不全ならびに顎骨の形成不全を認めた。 以上より、タマリン遺伝子は、アフリカツメガエルの発生期において、顎顔面領域の形態形成に重要な働きをすることが明らかとなった。
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