申請者は、以前より顎関節炎の治療として抗炎症性サイトカインの遺伝子導入に着目し、検討してきた。これまでの研究で、エレクトロポレーション法を用いて遺伝子導入を行ったところ、アジュバンド関節炎の炎症の抑制に成功しているが、電極の刺入や高電圧のパルスなど局所に対する侵襲が大きいなどの問題点があった。そこで今回、低侵襲で、時間的・空間的制御に優れた超音波遺伝子導入法(ソノポレーション法)を用いることで、難治性疾患である顎関節炎の病態解明および制御を検討することとした。 遺伝子導入対象細胞には、ウサギ膝関節由来の培養滑膜細胞であるHIG82を用い、マイクロバブル造影剤(SonoVue)を併用したソノポレーション法にて、β-galactosidase発現プラスミド(pEF1α-βgal)を導入し、その導入効率を確認した。超音波遺伝子導入装置には、Sonitron2000を用いた。HIG82細胞懸濁液にプラスミドとマイクロバブルの混合溶液を添加した後、周波数:1MHz、強度:1.0W/cm^2、duty比:10%、照射時間:20secの条件で、超音波照射した。導入24時間後にβ-gal染色を行い、その陽性細胞をカウントした結果、超音波非照射群には遺伝子の導入はほとんど認められなかったが、マイクロバブルを併用した超音波照射群にはβ-gal陽性細胞が認められ、導入が確認された。一方、同様の方法で、HIG82に抗炎症性サイトカインであるIL-1ra遺伝子を導入し、Western Blottingによる解析を行ったところ、その培養上清中にIL-1raの発現が確認された。さらにその発現は培養24時間後よりも、48時間後の方が強かった。 本法による滑膜細胞への遺伝子導入が可能であることは確認できたものの、その導入効率は従来のエレクトロポレーション法と比較して高いとは言えないのが現状である。しかしながら、超音波照射条件やマイクロバブル濃度など可変要素が多く、現在、至適条件を模索中である。さらに、IL-1ra遺伝子導入後のHIG82に対しLPS刺激を行うことで、炎症性サイトカインやPGE_2の産生量にどのような影響が生じるのかを検討中である。
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