研究概要 |
近年、歯科用レジン材料から微量に溶出するフェノール系抗酸化剤ハイドロキノン、ビスフェノールA等のエストロゲン様作用や発ガン性が指摘されている。カンファーキノン(CQ)や9-フルオレノン(9F)が可視光線重合開始剤として用いられており,これらは光照射により細胞レベルで活性酸素を発生させ強い細胞障害、DNA障害を引き起こした。そこで、これら増感剤をマウス頬粘膜に塗布し、歯科用可視光線レジン重合照射器で処理し、組織レベルでの障害性を検討し以下の結果を得た。 1.CQを作用させ5分間放置した頬粘膜では、中等度の細胞性水腫を認め、基底細胞の集積と濃染を示した。 2.CQを作用させ5分間の光照射を行うと重度な細胞性水腫を示し、空胞形成が著しくなり、細胞間橋は消失する傾向にあった。 3.9Fを作用させた頬粘膜では、重度な細胞性水腫を示し、核の消失が認められた。 4.9Fを作用させ5分間の光照射を行うと細胞間橋と核は完全に消失し、重度な炎症症状を示した。 5.アポトーシス誘導反応は明らかでなかった。 CQ、9Fは歯科臨床レベルでの可視光線照射により、顕著な口腔粘膜障害性を示したが、アポトーシス誘導作用は認められなかった。日常歯科臨床において、CQは使用されており、レジン材料の安全性を考慮する必要性が示唆された。しかし、細胞実験に比べ組織レベルでの障害性は小さかった。これは、生体に存在するフェノール系抗酸化剤ビタミンE、その他の抗酸化剤ビタミンC、グルタチオン等がCQ、9Fの光増感により産生される有害フリーラジカルを消去したものと考えられた。そこで、cell-freeの条件化アゾ化合物や過酸化ベンゾイルでラジカルを産生させ、ビタミンE誘導体(α、β、δ、γ)がラジカルを消去できるか否かをメタクリル酸メチルエステル重合系で検討した。ビタミンE誘導体はこれらのラジカルを消去した。 以上のことから、抗酸化剤の適切な摂取はラジカルによる細胞障害性の予防になると考えられた。
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