近年、顎関節内障患者の顎関節内視鏡所見から、滑膜組織では毛細血管の増加や充血といった炎症症状が認められることが明らかとなった。また、組織学的研究では患者の滑膜組織では炎症性細胞の浸潤が認められると報告されている。一方、IL-1βは顎関節内障患者の滑液中で検出され、顎関節病態形成に深く関与していると示唆されている。本研究では、滑膜の炎症病態形成におけるIL-1βの役割を検索することを目的として以下の実験を行った。インフォームド・コンセントを行った5名の顎関節内障患者滑膜より滑膜細胞を得た。IL-1β刺激および無刺激滑膜細胞からtotal RNAを抽出し、Gene Chip HG Focus Arrayを用いて遺伝子発現量を測定、Gene Springにて発現解析を行った。その結果、IL-1βにて遺伝子発現上昇率の高い遺伝子群には炎症性細胞の遊走や血管新生に関するケモカイン遺伝子が多く認められた。ケモカインの中でもmonocyteやT cellの遊走に関与するMCP-1はIL-1β刺激滑膜細胞で遺伝子発現量が高かった。次に、IL-1βをラット顎関節腔内に投与し24時間後の顎関節部切片を作製、HE染色を行った。IL-1β投与群では滑膜組織で毛細血管の拡張および炎症性細胞の浸潤、滑膜表層の肥厚化が認められた。また、免疫組織化学染色法によりMCP-1発現を調べたところ、IL-1β投与群では滑膜表層や滑膜組織の血管周囲にMCP-1陽性細胞が認められた。以上の結果から、IL-1βが滑液中で上昇すると滑膜細胞が刺激を受けてMCP-1等のケモカインを産生し、産生されたMCP-1等ケモカインにより炎症細胞の遊走が惹起去され、滑膜の炎症状態が生じると示唆された。
|