近年、顎関節滑液解析によりIL-1β等の炎症性サイトカインが顎関節内障患者滑液で上昇していることが報告され、病態形成への関与が示唆されている。一方、顎関節内障患者滑膜では、顎関節内視鏡所見で毛細血管の増加や充血が、組織学的所見では炎症性細胞の浸潤が認められる。そこで、患者滑液中のIL-1βが滑膜の炎症状態形成に関与しているのかを検討することを目的として、以下の実験を行った。1.in vitro:インフォームド・コンセントを行った顎関節内障患者の内視鏡手術時に顎関節滑膜を採取し、滑膜細胞を分離培養した。IL-1β刺激及び無刺激滑膜細胞からtotal RNAを抽出し、GeneChipを用いて発現解析を行った。その結果、IL-1βにより遺伝子発現が上昇した遺伝子群にはIL-8およびMCP-1等のケモカインが多く認められた。さらに、炎症に関与しているCOX2、IL-1β、骨吸収に関与するIL-6、M-CSFなどが認められた。2.in vivo:IL-1βをラット顎関節腔内に投与24時間後、72時間後に顎関節部切片を作製し、組織学的検索を行った。IL-1β投与群の滑膜では毛細血管の拡張および炎症性細胞の浸潤、滑膜表層細胞層の肥厚化が認められた。また、MCP-1、COX2およびIL-6について免疫組織化学染色を行ったところ、MCP-1はIL-1β投与24時間で、COX2およびIL-6は投与後72時間で顕著な染色陽性が認められた。以上の結果から、滑液中で上昇したIL-1β刺激により、滑膜細胞のMCP-1等ケモカイン産生及びIL-6産生が増加し、COX2産生上昇によりPGE2産生が増加する。その結果、滑膜では炎症性細胞遊走が惹起され、炎症症状が亢進すると示唆された。(日本大学松戸歯学部倫理委員会及び動物実験倫理委員会承認番号:03-003、05-003)
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