研究課題
本年度は、主に出血に伴う微小循環系の観察に主眼を置いた。脱血により、微小循環の広範囲に存在する毛細血管網の血流は減少し、ある程度の太さを持つ細動脈の流れだけになることが、生体顕微鏡下で観察された。これは本来大量の血液が存在すると思われる毛細血管網の容量が減少したことを示す。この現象は、脱血に伴う循環血液量の減少により引き起こされる臓器潅流圧の減少を防御するためにも必要な反応である。先に行われた、循環血液量の10%程度の出血に対する同量の6%FITC-HES投与時の微小循環系観察では、大・中・小の分子量の違いにかかわらず、投与開始3分後には多くのFITC-HESが血管外に漏出した。時間の経過と共に小分子量のHESは血管内から消失していくのが観察された。一方、中・大分子量のHESは投与後2時間において80%以上が血管内に留まっていることが観察された。これにより、ある程度の出血に対する膠質液として、HESの分子量は必ずしも大きい必要はなく、今回の研究での中分子量のHESでも十分であることが示された。また、循環血液量の約1/3を脱血し、同量のHESを投与すると、投与後約1時間はどの群(大・中・小分子量)においても血管外に漏出することはなかった。この現象は大量出血後に毛細血管網の大部分が閉鎖して、物質移動の場となる部分が少ない細動脈系だけが開通していたことを示すものと思われる。この場合、小分子量のHESでもある程度の時間は血管外に漏出することはないことが示されたことでもあり、大量出血のさいの膠質液として小分子量のHESも有効であると考えられる。なお、大量出血後であってもHESを投与して循環が安定した場合、毛細血管網でのFITC-HESの漏出が観察された。これは膠質液投与により循環血液量が正常に近づいたこと、そして循環の安定により毛細血管における静水圧の増加したことにより、小分子量のHESは血管外に漏出したものと考えられる。
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