研究概要 |
【臨床研究】口腔癌手術症例の多くは術後の摂食・嚥下障害が出現する。そこで口腔癌手術前後の嚥下障害を改善する目的で皮弁および瘢痕修正術を行った。嚥下機能評価はVF検査で比較検討した。対象は口腔癌患者7例である。その結果,術前は嚥下前咽頭流入がみられたが術後は全例改善傾向を示した。以上のことから皮弁および瘢痕修正術は摂食・嚥下障害の改善に有用であると考えられた。以上の臨床研究を行ってきたが嚥下,顎運動に対する基礎研究が必要であると考え以下の基礎研究を行った。 【基礎研究】リズミカルな顎運動はドパミン受容体アゴニストをラットに投与した際に誘発される。ドパミン受容体のD_1-様受容体にはアデニル酸シクラーゼ(AC)を活性化する以外に,ホスファチジルイノシトール系を介するタイプが存在する可能性が示唆されている。SKF83959という薬物は,ホスファチジルイノシトール系を活性化するが,ドパミンによるACの活性化抑制作用をも持つという点でAC共役型D_1-様受容体のアンタゴニストとして定義に合致する。そこで,SKF83959をドパミンD_4およびD_5受容体ノックアウトマウスに投与し,顎顔面領域の運動に及ぼす効果についてマウスの雌雄差を考慮した検討を行った。その結果,SKF83959の投与によって水平的顎運動(Jh)への影響は少なく,垂直的顎運動(Jv),チャタリング(Ct),舌の突出運動(Tg),頭部の運動(Hd)および感覚毛の運動(Vb)は増加し,静止状態(St)は減少した。SKF83959の雌雄差は,D_4受容体ノックアウトマウスとワイルドタイプマウスのVbにおいて雄性が雌性よりも高いことが認められた。受容体をノックアウトした影響は雌性のみに認められ,D_5受容体ノックアウトマウスのTgとD_4受容体ノックアウトマウスのJhが,ワイルドタイプに比べてSKF83959に低い反応性を示した。
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