研究概要 |
抜歯,インプラント埋入,下顎の伝達麻酔などの歯科処置に際して神経損傷を生じ,hyperalgesiaやallodyniaなどの感覚異常が惹起されることがあるが,この感覚異常発現に末梢の神経炎が関与していることが考えられる。近年,坐骨神経の神経炎モデルで痛覚異常が発現し,TNFやIL-1などのサイトカインが関与していることが報告されている。末梢神経損傷後,神経節あるいは脊髄でsatellite cellやmicrogliaの活性化が報告されており,gliaの活性化が神経傷害性疼痛に関与していることが示唆されている。本年度は、まず末梢神経に炎症のみを生じさせるモデルの作成のため、操作の容易な坐骨神経に関して、物理的損傷を全く伴わない,神経炎のみを生じるモデルを作成した。免疫組織化学的手法により、本モデルにおいては神経損傷マーカーであるATF3が、知覚神経節の中で小型細胞中心に発現が観察された。これは純粋な炎症反応によっては、無髄のc-繊維をもつ小型細胞の方が損傷を受けやすいもとを示している。電顕写真による検索を行ったが、無髄の神経において大きな変性像が観察された。さらにより末梢に疼痛刺激を与えて細胞体のおける反応性を、リン酸化ERKを用いて検索すると、神経炎モデルにおいては有意にリン酸化ERKの反応が低下しており、さらに反応が残存するのはATF3を発現していないspared neuronsであることがわかった。上記の神経炎のみを生じさせるモデルの疼痛行動を詳細に検討した結果、その閾値には変化がないことが明らかとなった。その結果、純粋な炎症のみでは特に小型細胞の障害のみでは疼痛行動、閾値には変化がなく、有髄細胞の障害が痛みの閾値の変化に重要である可能性が明らかとなった。
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