歯の発生は、さまざまな遺伝子の発現やサイトカインなどの増強因子の作用によって調整され、複雑なシグナルネットワークが歯の分化と形成には重要な役割を果たしていることが明らかになっている。しかし、歯の発生における全てのメカニズムの詳細が明らかになっている訳ではない。本研究は、IKK-γが歯の形成のメカニズムにどのように関与しているのかを明らかにするために、以下の実験を行った。 1.歯胚初期におけるIKK-γのmRNA発現の確認 マウスの顎骨から各ステージの歯胚および歯胚を含む周囲の組織を摘出、IKK-γに対するin situハイブリダイゼーションを行い、各歯胚ステージでのIKK-γの発現時期・部位の検索を行った。その結果、IKK-γは、歯胚初期において歯胚上皮に強く発現していることが確認された。 2.マウス歯胚領域におけるIKK-γのsiRNAによる機能障害実験 マウスの顎骨から各ステージの歯胚および歯胚を含む周囲の組織を摘出し、器官培養を行った。器官培養の過程で、IKK-γのセンスRNAに対するsiRNAを注入し、歯胚の形成における形態学的な変化について検討した。その結果、siRNA作用させた群では、歯胚の成長のみならず、下顎骨の成長も抑制された。 3.転写因子の検索 転写因子の一つであるNF-κBの発現について調べたところ、IKK-γのセンスRNAに対するsiRNAを作用させると、NF-κBの発現は抑制された。NF-κBは、細胞分化やアポトーシスに関わる重要な制御因子であることから、今後、IKK-γとNF-κBの活性化のシグナル伝達についても詳細に検討する必要性があることが示唆された。 以上の結果から、IKK-γが歯および下顎骨の形成のメカニズムに深く関与していることが示唆された。歯の発生・分化のメカニズムを明らかにするうえで、IKK-γは極めて重要な役割を果している考えられた。
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