研究概要 |
ヘルペス科ウイルスは、多くが乳幼児期に感染し、口腔内に典型的な口内炎を生じさせ、歯科領域では重要なウイルスである。胎生期や周産期のヒトサイトメガロウイルス感染が、歯の形成不全を起こすことは報告されているが、マウスを用いた動物実験において確認した。しかし、そのメカニズムが十分に解明されたとはいいがたい。本年度は、歯の形成時期においてウイルス感染初期に解明の焦点をあて、宿主の免疫学的な背景を解明することを目的に実験を行った。 (1)出生48時間以内のマウスに、5x10^5 PFUのマウスサイトメガロウイルス(MCMV)Smith株を腹腔内接種した。経時的に、還流固定後、上顎骨ならびに下顎骨を摘出し、薄切標本を作製した。肉眼より3週目から5週目にかけて、下顎切歯には明瞭な着色が確認された。(2)4週齢マウスの腹腔に、同ウイルス量を腹腔接種し、経時的に屠殺して、上下顎骨、臓器を摘出した。臓器は、ホモジナイズ後遠心分離し、上清中のサイトカインの発現をマイクロアレイ法にて観察した。脾臟においては、IL-2を除いたサイトカインの動態はほとんど認めらなかったが、大脳では、感染初期から、IL-10、IL-17、IFN-γ、MCP-1,TPO、VEGFのサイトカインの変動が認められた。感染4日目には、上記に加え、IL-4、IL-5、IL-6の上昇も認められた。 歯の形成の一時期にIL-6などのサイトカインがかかわっていることが報告されている。本実験において、臓器におけるサイトカインの発現の結果から、感染後には宿主の反応が大であり、10日以上経過しても組織には特に脳に炎症性反応が継続していること、すなわち、感染から歯の萌出する時期までの間ずっと炎症性反応が生じていることが明確になり、歯の形成にも影響を与えていると推察される。
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