研究概要 |
ウイルス感染により生じるマウスの切歯の形成障害において、全身の炎症の関連に焦点をあてた。 新生時期のマウスに、5x10^4 PFUのマウスサイトメガロウイルス(MCMV) Smith株を腹腔内接種し経時的に顎骨を摘出し、切歯の表面をSEMにて観察した。ウイルス感染急性期に相当する部位での形成障害が認められたので、4週齢のマウスを用いてウイルス感染後のサイトカインをマイクロアレイ法にて調べ、IL-2、IL-10、IL-17、IFN-γ,MCP-1、TPO、VEGF、IL-4、IL-5、IL-6の変動が認められた。 次に、炎症性の反応としてHDC活性を指標にし、その動態と炎症性サイトカインの動態を検討した。4週齢マウスにMCMVを腹腔接種し、経時的に採取した各臓器のHDC活性とサイトカインを測定した。脾臓と肝臓では、HDC活性の上昇時にウイルスが分離された。HDC活性の上昇する時期は臓器毎に異なっていた。サイトカインの動態は、脾臓ではVEGFとTNF-αが有意に減少した。肝臓では、IL-12、TNF-α、IL-6が有意に上昇した。肺では、IL-12の上昇とIL-6の減少が認められた。IFN-γは13日目から上昇した。 歯の形成の一時期にサイトカインがかかわることが報告されている。HDC活性の結果からも、ウイルス感染後には宿主の炎症反応が大であり、10日以上経過しても多臓器組織に炎症性反応が継続していることが確認された。各臓器での炎症反応もウイルスの病原性に関わり、産性される炎症性サイトカインやケモカインはウイルスの増殖や排除にかかわっていることが示唆される。HDC活性上昇によるヒスタミンは、血流動態の変化をおこし、血管透過性充進させるが、マウスの歯の形成時には歯槽血管の役割が大きい。よって、ウイルス感染後の全身的な炎症が、歯の形成にも影響を与えていることが示された。
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