研究概要 |
歯科医学教育において学習者の理解を助けるために視覚素材が用いられるが,教育者の意図を学習者が正しくつかんでいるかは明らかでない。教育者自身は視覚素材を見たとき,専門家であるがために,情報を探索する上で合理的な見方をしているのではなかろうか。学習者と教育者との間で情報探索の仕方に差が有るとすれば,学習者が教育者と同様な情報探索を行えるよう視覚素材を考慮する必要がある。そこでまず歯学部5年生のボランティア20名に対して混合歯列顎模型と4種のラバーダムクランプの写真を同時に提示するテスト画像を用い,指示した歯に適合するラバーダムクランプを選択する際の眼球運動を測定するとともに,選択するまでの反応時間を記録する実験を行った。また同じテスト画像を用い,小児歯科専門医2名と小児歯科認定医2名の計4名で同様に実験を行った。両実験結果を比較したところ,選択するまでの反応時間は学生の平均が13秒だったのに対し小児歯科医では4秒と短かった。また,指示した歯に最適なラバーダムクランプを選択した学生は20名中7名であったが,小児歯科医は全員が正しく選択した。そしてラバーダムクランプを選択する際の眼球運動の軌跡について比較すると,学生では顎模型と各ラバーダムクランプの間を繰り返し視線が走査し複雑な軌跡を示したのに対し,小児歯科医では模型から目的のラバーダムクランプに至るまで非常に単純な軌跡を示した。以上より,学習者と教育者とでは同じ視覚素材を見ても情報探索の仕方が異なり,学習者は教育者のように合理的に視覚素材を見ていないことが確認できた。
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